マーケター震撼!大失敗フェス「FYRE」のドキュメンタリーは教訓の宝庫
Netflixに入会して1年ほど経ち、最近はクオリティの高いネトフリのオリジナル作品ばかり観ています。その中で「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」という、とてつもなくヤバい作品に遭遇してしまいました。
本作は失敗した海外フェスのドキュメンタリーなのですが、マーケターという立場で見たからか心底つらい気持ちになってしまったので、ここに吐露しておこうと思います。
スタートアップ企業が企画した“豪華フェス”
FYREはもともとアメリカ発のアプリで、登録ユーザーがセレブやアーティストを自分たちのパーティなどに呼ぶためのマッチングサービスです。20代前半という若さでこれを立ち上げたビリー・マクファーランドは、ある日サービスにかける情熱が膨らんだ末に「せや!フェスやってサービスのブランド価値高めたろ!」と思い立ちます。
著名なラッパーJA RULEが共同主催者に加わり、会場をカリブの島国バハマに、移動手段をプライベートジェットに、呼び込むアーティストをビッグネームばかりに…などなどフェスは夢のような座組に。当然、開催前から鳴り物入りの一大イベントとして話題を集めました。
セレブ×SNSなど巧みなマーケ活動
FYREフェスティバルの語りぐさであり、作品でもビビッドに描かれているのは開催前のインフルエンサーマーケティング。こちらはフェス告知用映像として実際に公開された動画です。
このように、日本の雑誌でもアイコンとして登場するケンダル・ジェンナーやベラ・ハディッドらトップモデルがバハマロケでエンジョイ。この美麗な動画に登場するだけでなく、フェス告知の解禁に合わせて自身のSNSでも一斉に画像をアップするなど、周到な告知が繰り返されました。
綺麗なビーチ、浮世離れした雰囲気、ヘルシー&セクシーなモデルたち……熱盛!タイムライン経由で情報をゲットし、好奇心を掻き立てられた人たちは次々に反応し、プランによっては100万円以上にもなったチケットは完売したそうです。
ほかにも作中ではインフルエンサー無料プランや現地で使用する電子マネーなど、フェスの企画にはスタートアップ企業ならではの今っぽいトピックが散りばめられています。
実態は詐欺とも言える地獄絵図
しかし、このフェスは世紀の大失敗に終わります。
主催者の過剰な熱意だけが先行し、会場設営や宿の確保などさまざまな準備がままならず、資金調達も難航。開催1ヶ月前になっても未確定要素が山積みで、最終的にはチケット購入者のうち350人も宿を提供できないという準備状況に陥ります。
夢から覚めないトップに対して現実的な相談を持ちかけるスタッフは解雇され、企画・設営スタッフは日に日に極限状態に。次第にチケット購入者らにも現状が知れわたっていくも、そのままフェスティバル当日に。参加者やスタッフが直面した惨状は――
That's right folks for just $10k, you too can have the "refugee fleeing war torn region" treatment at #fyrefestival pic.twitter.com/RqYzGq0Yg5
— ?Garrett Garner? (@garrettgarner12) 2017年4月28日
最終的にフェスは中止。ビリー・マクファーランドは詐欺で実刑判決を受け、インフルエンサーとして登場したトップモデルたちも謝罪するという結末になりました。このドキュメンタリーはフェスの始まりからその末路までを、関係者たちの証言を多数織り込む形で事細かにレポートしています。
・「究極のぜいたく」音楽フェス主催者に集団訴訟、100億円超の賠償請求 :AFPBB News ・「究極のぜいたく」フェス中止騒動、主催者に禁錮6年 :AFPBB News ・横行する倫理なき「インフルエンサーマーケティング」──ある音楽フェスの炎上にセレブたちの“罪”を見た|WIRED.jp
胃をキリキリ言わせながら教訓を勝ち取れ
この作品、マーケターや何らかのディレクター職、あとスタートアップ・ベンチャー企業の勤務経験がある人は「う、うわー!」って叫びたくなると思います。私はそうでしたし、この記事という形でも声を上げさせていただきました。
とんでもない状況下で下々のスタッフが振り回される様子なんかもそうですし、ヤバげなプロジェクトが瓦解する瞬間もそう。うまくいかないのが明白なのにオープンさせなきゃいけない状況や、その後のGoogleハングアウトでの反省会……共感性が強くて胃腸の弱い人にはとてもじゃないけどおすすめできません。
しかし反面教師として、これほど貴重な素材もないと思います。これを観れば「身の丈に合わないSNSマーケなんて絶対やらないほうがいいな…」って身にしみますし、理想を現実のものに落とし込むためにはしっかりとした準備期間や調査が必要なんだなと思い知るでしょう。もしかしたらヤバい空気(悪い意味のほう)の嗅ぎ分け方なんかも学べるかもしれません。生きててここまでの失敗と遭遇する機会ってなかなかない。
個人的には、実態こそ伴わなかったとはいえ、いわゆるバズを起こすためのバズマーケティングの具体的手法として例示されていることや、その火のつき方がわかりやすく説明されていたので興味深かったです。
怖いもの見たさを満たすだけでなく、教材としても本作はおすすめです。あと人の心が折れる瞬間や業の深さなんかもしっかりと見られます。よろしければチェックしてみてください。